すこーん!と高い星空に、したぁ〜と波が重なって、流した涙は色即是空。
泣いたのはカメである。首が伸びる、ゆる〜く動く、して、長生きなカメである。からして、無数の諸行無常にそそる涙の鬼子母神。さあ、泣いてる訳を話してごらん、もしもし、カメよ、カメさんよ。

今は昔、朝がそんなに早くなかった頃。走れイナバの白うさぎ。カメと一騎のかけくらべ。どちらが勝つって決まってら。利口なうさぎは知ってたよ。もちろん自分が勝つってね。短命な己を慰めてんのさ。

ところが、どうだい!油断大敵、火事、おこげ。ご長寿カメさん、到着したらば白うさぎ、何と手前で寝てやんの。

もしもし、うさちゃん、うさぎちゃん。目覚めてびっくり子だくさん。己が爪先にも及ばぬカメ公の足が、なんと頂上極めてなさる。
怒り狂った白うさぎ、くわっ!と一声カメさんの、首ひっ捕まえては、ぶるんぶるんと回したる!ああ、恥ずかしや恥ずかしや。

「おいおい、バニーそりゃないよ。」そこへ来るが紅顔の、腰竿さしたる粋な人。キュウキュウ輪廻のカメさんに、いざや加勢と飛び入った!

「だ〜い〜じょ〜ぶ〜で〜す〜か〜」
伸ばしたカメの首先に、倒れ込んだは粋な人。カメの身代わりに振り回されて、息も絶え絶え
「拙者、浦島と申す…」がくっ。
ああ、恥と怒りの合わせ技。あな恐ろしや恐ろしや。

こりゃいかん!助けてもろうたこの命、身代わりとても死なせるものか!
やや珍しくカメさんが、奮い立ったよ我が師の恩。いざ浦島なる御仁、甲羅へ担ぎ、これや万物の根源、ビッグママ乙姫様の御元へ!

泳ぐは哀歌の海原深く。安寿、厨子王姉弟の母恋し涙の落ちた底の底。薄桜色の門くぐり、珊瑚たゆたう大広間、これぞまさしく竜宮城。

わき目もふらずカメさんは、乙姫謁見早々に、担ぎたる浦島差し出して
「どうかこの御仁をお救いたまえ」
差し出されたは苦痛に喘ぐ、男前。
「こはいかに。早よう傷をいやしましょう」乙姫は浦島腕に抱えあげ、秘薬
敷き詰めた寝どころへ誘ってたまわれた。

傷癒えるままに強くなる。なんと、恐ろしき復讐の念。男浦島、うさぎに負けた恥ずかしさ、傷の癒えるままに強くなり、思うはリベンヂばかりなり。

「私を陸へ帰してください」
しとねの度に浦島は乙姫様へ情けを乞い、乙姫様もようやくに、「まこと、男は仕方がない」とため息一つ憂いては、輪廻の果実「桃カプセル」を授けたり。
「浦島よ。あなたは桃の中で生まれ変わりましょう。海渡り、川遡り、お行きなさい。強き念あれば、あなたの願いは叶いましょう。果たす先に必要でしょう、滋養強壮の実、きびだんごも餞別です。
「ありがたや、ありがたや」

どんぶらこっこ、どんぶらこっこ。
桃尻揺れる度ごとに、浦島身体の縮む思い。ジリジリ、ヒリヒリ、ムズムズと幾多の感覚通り過ぎ、長く待った。長く待ったぞ、生まれる時!。

「あれまー桃が!」
川で洗濯すなる婆や、巨大桃見つけて腰し抜かす。
「やな、暫し。ご婦人お恐れめさるな」
桃より聞こえる妙な声。
「お恐れめさるな、ご婦人。すまぬが、この桃切ってはくれまいか」
婆や、いよいよ恐れおののくばかりに「ひえ〜!」あらん限りの悲鳴上げ、聞きつけた爺や、芝刈り鎌でズサッと桃一太刀。
見事真っ二つ、桃より飛び出るまるはだか。
「オッス!オラ太郎!浦島太郎!」
「何が太郎じゃ、ビビらしおって!この桃野郎!お前なんぞ、桃バカ太郎じゃ!」

拾い拾われし縁もそこそこに、桃バカ太郎の道一つ。目指すは走れイナバの白うさぎ!

もしもし、うさちゃん、うさぎちゃん。カメさんに負けてより、この方、すっかりもってやさぐれて、片っ端から唾はく日々。敵の大きさ鑑みず、売った喧嘩の後遺症。耳は齧られトンガッテ、皮、はがされてマッカッカ。
鬼畜なりし風貌に、未だに吐きます毒の花。
鬼畜うさぎが月に吠え、ウワサしきりと轟きたり。

何と聞き捨てなるものか。桃バカ太郎、さては定めの、かのうさぎ。今度こそはと抜かりなく、道中すれあいし袖の、同じくうさぎに因果なりし、蟹、蜂、栗、石臼、牛糞を引き連れて、覚悟!鬼畜が棲家!鬼が島!

むっかし〜むっかし〜うらしまは助けたカメに連れられて竜宮城へ行ってみれば、目にもかけない、輪廻カプセル、お腰につけたきびだんご、一つ私にくださいな。

とりゃあ〜積年の恨み今こそ晴らさでおくべきか。ちぎっては投げちぎっては投げ、流石の鬼ウサギも復讐に燃える桃バカ太郎の前では赤子も同然。これはたまらんとばかり、鬼ウサギは命からがら海へと身を投じた。

ざぶんと落ちた海の底、気がつけば真珠光たる竜宮城。
ウサギはビッグママ、乙姫様に抱えられ、秘薬のしとねに誘われる。浦島め、浦島め、今に見ておれ復讐は三度はらさでおくものか!


すこーん!と高い星空に、したぁ〜と波が重なって、流した涙は色即是空。
泣いたのはカメである。首が伸びる、ゆる〜く動く、して、長生きなカメである。からして、無数の諸行無常にそそる涙の鬼子母神。

因果はいつまで応報す。輪廻カプセル途切れなし。

      
- 完 -